2018/09/18

【メイキング】ビッグチャップ・スタチュー/ 左腰のチャック、手袋の縫い目、踵の前歯

原田プリスキンです。

なかなか更新できず、申し訳ありません。

このビッグチャップは全身が“文脈のかたまり”で、「説明がないとそのすごさがわからないポイント」だらけです。
マニアの方でも、「あっ、ここをきちんと再現してる!」と指摘することができないほどの「マニアックを超えたマニアックな部分」でいっぱいなのです。

ひとつひとつ丁寧に語っていけたらと思っていたのですが、なかなかその時間を捻出することが難しく……ここは知っていただくことのほうが先ということで、駆け足で紹介していきます。




■実地調査の旅

僕と原型担当の藤本さんは、昨年の10月にスイスは「ギーガー・ミュージアム」、ドイツは「フィルム・ミュージアム」へ実地調査に行ってきました。ギーガー・ミュージアムにはギーガーが制作したビッグチャップの全身立像が、フィルム・ミュージアムには実際に映画で撮影されたスーツの実物が展示されています。

二人旅なので、写真はお互いを撮りあう
この旅で発見し、造型に取り入れたディテールがあります。
本日は3つのポイントをご紹介します。

※  ※  ※

■フィルム・ミュージアム

フィルム・ミュージアムでは、ビッグチャップはこういった形で展示されています。


真空状態に密閉されたガラスケースの中で、ワイヤーで吊られています。


このビッグチャップを撮影した写真、僕と藤本さんと合わせて950枚。以前600枚となにかに書いた覚えがありますが、950枚の間違いでした。そして、特に印象的な部分はスケッチしたりメモを取りました。

※  ※  ※

■腰のチャック

腰の部分にご注目下さい。


わかりますでしょうか?


なんと、チャックがあります! どのようにスーツを着用していたのかは謎が多く、マジックテープが使われていたことはわかっていましたが、チャックが使用されていたとは!


写真ではどの部分がチャックかわからないという方に。現地で描いたメモです。


スタチューの腰の部分です。議論の末、このチャックを造型に取り入れることにしました。美観を損ねないですし、マニア心をくすぐります。もちろん世界初再現です!

※  ※  ※

発見されたチャックはこの左腰だけではなく、


腿の内側にもありました。が、これは再現しませんでした。


これは左腕の、手首あたりのメモ。マジックテープが使われていました。しかしこれも再現しませんでした。

===9/21 追記===

「なぜ太腿の内側のチャックを再現しなかったのか」という点について、お問い合わせを複数頂きました。

こちらがフィルム・ミュージアムの個体の膝内側です。


膝近くまで、チャックの切れ込みが入っています。


こちらは、当時撮影された高解像度写真の膝近くです。
膝の内側が写っています。
ですが、チャックの切れ込みは確認できません。


もしもチャックがこの個体にも取り付けられていたならば、このようなラインで線が入っているはずです。
それが見当たらなかったので、今回のスタチューでは造型しなかったというのが理由になります。

気持ちが走って言葉が過ぎた部分と、「高解像度の写真に確認できなかったので」のたった一言が足りず、不必要なご心配をお掛けしました。
お詫びして追記と訂正をさせていただきます。

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※  ※  ※

■グローブの縫い目

藤本さんは、以前から「ビッグチャップの手袋(の構造)が気になって仕方ない」とよく言っていました。
「どうも前後で縫われているように思う」と。


僕はそんなことを考えたこともなかったので、藤本さんの着眼点に感心しました。言われてみれば、海外コレクターの所有するビッグチャップのグローブのプロップには、指の間にが見えます。赤い矢印の部分だけでなく、指の横からボソボソと糸らしきものが見えるのがわかるでしょうか。

グローブの型をたい焼きのようにオモテ面とウラ面でとって、できた二枚のラテックスの皮を縫い合わせているのではないかと推測しました。

いざ現物を確認。


右手のアップです。
藤本さん、これは!



たしかにグローブの前後が、黒い糸で縫い合わされています!


藤本さん大正解! ということで、これにはめちゃくちゃ興奮しました。

わかりやすいよう人差し指の糸にマーキングしましたが、グローブの外周がぐるりとかがり縫いされていたのです。

現地でとったメモ


これはスタチューの写真です。
二人を大興奮させたディテールなので、再現しないと絶対に後悔します。


写真の真ん中、縦に走っているライン。
これは親指なのですが、「縫い目」が見えると思います。
あまりにも馴染みすぎて、よほどのマニアでも気付くのが難しいのではないでしょうか。

藤本さんは、「ビッグチャップのディテールとして、この縫い目はもとから計算されたかのように思える(くらいに、良いリズムで入っている)」と言います。

意図されたものではまずないでしょうが、確かにスーツの時点でその縫い目は狙ったかのように美しかったです。

ぜひスタチューで、元々のグローブのディテールと縫い目のディテールが織り成す偶然の美しさを見ていただきたいです。

※  ※  ※

■踵の突起

これまで、ビッグチャップのフィギュアやスタチューの踵からは、二本の突起が生えていました。


これはネカのアクションフィギュアです。二本の突起が生えています。


藤本さんが手掛けた傑作、ARTFX+のビッグチャップです。

突起の付け根には、ツブツブが見えます。これは動物の奥歯です。
ビッグチャップの造型には、全身の各所に動物の骨が使われています。

踵には、草食動物(おそらく鹿)の下顎骨が埋め込まれていることがわかっていました。
世のほとんどのフィギュアにこの二本の突起があり、ネカやARTFX+のように志の高いフィギュアは、奥歯のディテールまで再現しています。


参考に、これが鹿の下顎骨の写真です。
先端は前歯があります。ビッグチャップの踵に前歯の部分は見当たりません。


わたるさんが所有する原型複製の踵は、このように突起が奥歯の少し先で終わっています。


複製品をもとに手を加えて商品化された、イギリスのメーカー「ハリウッドコレクタブルグループ」のライフサイズ・スタチューも同様です。

しかし、ギーガー・ミュージアムに飾られていたビッグチャップの立像は!
(写真を撮ることができなかったのでスケッチですが……)


ぐずぐずに溶けた丸ディテールに目が行きますが(足元はかなりのダメージを受けていました)、ここは踵に注目です。なんと、二本の突起が先端でくっついて


歯茎まで残っていたのです!
ギーガーは、下顎骨を途中で折ったわけではありませんでした。

そして、ドイツでさらなる衝撃を受けます。

なんと





歯茎だけにとどまらず、前歯の先端までがまるまる使用されていたのです!

言葉を失うくらいの衝撃でした。

この事実を踏まえ、高解像度写真をあらためて見ると


前歯が先端まで残っている! うおお、気付かなかった……。

という事実をさらに踏まえて、今回のスタチューのモチーフになった写真を見ると


あります、前歯が!

この部分は形状が複雑なので、硬い樹脂で複製を取ると、型からはずす際に破損したり、樹脂がまわらなかったりするのでしょう。

わたるさんの所有する原型複製はFRP製なので、脱型する際に奥歯のすぐ先で折れたのかもしれません。

同じくFRP製と思われるギーガー・ミュージアムの立像も、前歯の先端まで樹脂が回らなかったか、脱型する際に破損したか……。

撮影に使われたスーツはラテックス製で、柔軟です。
なので複雑な形状でも破損せず、きちんと原型を再現することができたのではないかと推測されます。




ということで、踵の突起。
前歯の部分までが、我々のスタチューで世界で初めて再現されることになりました。
これがビッグチャップの踵の「本来の形状」です。


ぜひ踵の突起のシルエットを比較してください。

※  ※  ※

スイス・ドイツで発見した部分はまだまだあります。
繰り返しになりますが……マニアでも知らなかった、気にしたこともなかったような部分に、このスタチューは熱く熱くこだわっているのです。

このスタチューに隠された数多くの「文脈」を、できるだけ多くの方に知っていただけますように。

次回へ続きます。


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https://mamegyorai.jp/net/main/item_detail/item_detail.aspx?item=528575


※おまけ


ベルンで買った、巨大なハンバーガー。
電車の中で周囲の目を気にしつつも、思いきりかぶりつく藤本さん

◆原田プリスキン

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