2018/09/04

【メイキング】ビッグチャップ・スタチュー/ 膝下のねじれ、足首の表現

原田プリスキンです。

ビッグチャップ・スタチューの足首を見て、「あれっ?」と思われた方はいらっしゃるでしょうか。




ビッグチャップの、できればディフォルメなどでなく精巧なフィギュアをお持ちの方は、その足首部分にぜひ注目してください。


これは、わたるさんが提供してくれた3Dスキャンデータより、足首の部分です。
つまり、ギーガーが造型したビッグチャップの原型の形状です。


くるぶしの部分に、三つの丸が入った丸のディテールが「ひとつ」あります。
お手元のフィギュアはいかがでしょうか。
きちんとできているフィギュアであれば、同じようにこの丸ディテールが片足にひとつずつあるはずです。
これが、ギーガーが意図したビッグチャップの「正しいくるぶし」です。
しかし僕らのスタチューでは……



右足に、丸ディテールが「ふたつ」あるのです。

これはどういうことでしょうか。

※  ※  ※

ビッグチャップのスーツは、いくつものパーツに分かれています。



このように、下半身は足首までのズボン状になっています。
足にはもちろんフットパーツを履きます。近年現存するもののひとつがレストアされたので、目にした方も多いのではないでしょうか。

レストア前

上・レストア前、下・レストア後


※唐突に余談※

芯として使われているスニーカーはPFフライヤーズの「センターハイ」ではないかと、僕は睨んでいます。

ノストロモ号の乗員たちは、ケインとランバート以外はPFフライヤーズのハトメを改造したスニーカーを履いています。ぜひ「ALIEN PF FLYERS」で検索してみてください。


そんな事実を踏まえてフットパーツのはじっこからチラ見えするアンクルパッチを見てみると、厚みがあってPFフライヤーズのものにそっくりです。よく言われている「コンバースのハイカット」ではないように思えます。
(リストアを担当したTom Spina Designsも「Converse high top sneakers」と書いていますが……。)

※  ※  ※

これ以上は本気で脱線するのでここまでにしますが、とにかく「ビッグチャップのフットパーツはハイカットスニーカーの高さである」というのがこれまでの我々の認識でした。


この写真に写っているものも、ハイカットのフットパーツですから。

ところが、高解像度写真を見ると


明らかにハイカット以上。長靴くらいの高さになっています。こんな高さのフットパーツは見たことがありません。

そしてお気づきのように、くるぶしには丸ディテールがふたつあるではありませんか!


すると、前のブログで書いたマーチャンダイズ用のリファレンス写真の数々の中に、「長靴状態のフットパーツがある」ということを藤本さんが指摘しました。

この写真の右上


パーツ単体で写っている写真は、今のところこれの他に見たことがありません。しかし、確かにハイカットスニーカーよりも丈の長い「長靴状のフットパーツ」は存在したのです。

図解します。


ギーガーが造型した原型をスーツにする際、


このようにパーツ分けされました。

そしてズボン部分のスソが内巻きにねじれることで、


本来重なるべき丸ディテールがズレて、ふたつになってしまった」というわけです。

では、今回モチーフとなった「屈みポーズ」の写真では、足首はどうなっているのでしょうか。

見てみると


これは同ポーズ、若干のアングル違いの写真ですが

はっきりと丸ディテールがふたつあるのが見えます。


これは、Photoshopを使って正しいアングルの写真の明度を上げたもの。



これまで潰れて見えなかった足首部分のディテールが浮かび上がってきました!


原型の足の真裏、アキレス腱の上には三本の棒状のディテールがあります。


この「本来ならば、真裏にあるべきディテール」は足首の側面に回っていて、


ふくらはぎのど真ん中を走るこのパイプ


同様に「脛の側面に回り、ねじれている」ことがわかります。


同じ日に撮影された別ポーズの写真は、さらに鮮明です。
くるぶし部分は写っていないものの、ふくらはぎの真ん中を走るパイプが脛の側面に回っていることがより良くわかります。

棒立ちのリファレンス写真と、この「屈み」「しゃがみ」ポーズの写真が撮影されたのは別の日です。

おそらく、このスーツの右足の膝下は「ねじれグセ」がついていたのでしょう。


以上の事実を忠実に反映し、僕らのビッグチャップの右足膝下はこのような造型になりました。


ちなみにこちらは、昨年末に東京コミコンでお披露目した「プロトタイプ原型」の足元です。先述の「三本の棒状のディテール」の位置に注目してください。最終版と比べて、位置が低いことがお分かりいただけますでしょうか。


それだけでなく全体的に位置が低く、ズボン側の丸ディテールは足の甲にかかり気味で、ねじれも少しオーバーです。

コミコン・プロトは足がなんだか短く、太いとも感じていました。そこで長靴側の足首を延長し、すねを若干締めたのです。すると一気に「これだ!」というシルエットになりました。

そんな試行錯誤も経ています。


藤本さんは、「スソのカットライン」にもこだわりました。エッジのニュアンスも、本物のスーツに忠実です。


左足の表現は、おもにこの正面の写真を参考にして「ねじれ具合」を確認し


「丸ディテールは二つ見えるほどではないが、少しねじれている」状態としました。

加えて言うならば、ズボンパーツの裾が広がってしまっている部分。


これはそのまま再現するべきか、抑えた表現にするべきか。
「美観を崩してまでの再現にこだわりすぎると、自己満足で終わってしまうよね。」
これは制作中、何度も何度も繰り返された言葉でした。

膝下については開発最初期から議論を重ねており、このスタチューの大きな課題だったのです。

結果、膝下はこれ以上ない「最適解」でゴールすることができたと自信を持って言うことができます。このスタチューの注目ポイントのひとつとなりました。

もちろん、このねじれの表現は世界で初の再現となります。
というか、かつてこの部分に注目した方はマニアにもそうは居ないのではないでしょうか。やるならば、とことんまで追求します。

ぜひこの「こだわりの歪み造型」をお楽しみください!

さらなる足の注目ポイント、「かかとの造型」に関してはまた別の記事でお話しします。

次回へ続きます。

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https://mamegyorai.jp/net/main/item_detail/item_detail.aspx?item=528575

※おまけ


スイスのおいしいバター、ジャムやチーズをすっかり気に入った藤本さん

◆原田プリスキン

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